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ユダヤの王「ダヴィデ」が作詞しましたが、何か?

 ト ニパキの息子「エルパキ」のCDを入手して聴いていた頃、これまたアメリカーナミュージックについて無類の見識と知識をお持ちのお友達「ブッピー」さんの日記で知ったミュージシャン「DOUG BURR」(ダグ・バー)のアルバムを聴いている。

 な ぜか、エルヴィス・パーキンスのアルバムと底流するものが共通する。それは神への祈り・・・これまでダグは3枚のCDを発表しているが、僕が入手できたのはそのうちの2枚。どちらも、その声はどちらかと言えば華奢で頼りなさげなのに説得力に富んでいる。で、今日は、彼の最新作「THE SHAWL」(左)の方である。

 実 はこのアルバムの楽曲はすべて聖書の「詩編」からとられている。つまり、ダヴィデの詩(詩編の作者は主としてユダヤの王「ダヴィデ」であるとされている)にインスパイアされたダグが曲をつけわずか27時間で一気に「せーの!」でレコーディングしたもの。

 曲 調に変化はあるものの、全曲「詩編」にインスパイアされている上、一気呵成の録音なので、統一感があり、まるで一個の組曲を聴いているようだ。クリスチャンでない僕が聴いてもその静謐な世界がもたらす静かな感動の波におおわれる。まさに心に「ショウル」をまとわせるかのようである。もちろん詩のことを知らずに聴いてもこころに沁みる素晴らしいアメリカーナミュージックにかわりはない。

 聖 書に題材をとった音楽・・・つまりはクリスチャンミュージックということになるのだろうが、考えてみればアメリカの音楽はほとんどクリスチャンミュージックと言ってもいいのではないか。(ボブ・ディランの音楽を想起すればその理解はたやすいだろう。)

 も ともとプロテスタント国家としては中途半端な「イギリス」では、聖書に書かれた「神の国」は実現できないと判断した「清教徒」達が新天地でその「建国」を目指して海を渡ったのが「アメリカ」の始まりである。だからアメリカには、他の国ならほとんどが持っているであろう建国神話がない。そりゃそうだ、最初から建国の理念設計図が存在したのだからそんなものは必要なかった、いや不要ですらあった。その理念設計図こそが”聖書”である。以来300年、いまだにアメリカはその設計図に従った理念国家の建設に突き進んでいる。

 キ リスト教徒が50%近くを占め、日曜に教会に行く比率が世界で最も高い国アメリカ・・・そういった意味では、アメリカはアラブ諸国よりゴリゴリの宗教理念国家であるとさえ言える。

 と ころで僕らは世界史で「宗教改革はマルティン・ルターによって開始された」と教わった。  僕は世界史は好きだったが、当時”宗教改革”だけは退屈だった。だが考えてみれば、今の世界を考えるときにこれほど重要なキーワードもない。

 肖 像に見るルター(写真右)は小太りでまったく精悍さに欠け、ちっとも魅力的ではなく、むしろ愚直なイメージを持っていた。  だが、彼はいろいろな意味で真の革新家だったのである。まず彼は、ラテン語の理解できない人々のためにラテン語で書かれていた聖書を、当時その地方で一番ポピュラーな言語に翻訳(のちのこの言葉がドイツ語になる)し、聖書の中身をわかりやくした。そして当時の最先端技術であったグーテンベルグの活版印刷機械を駆使してドイツ語聖書を出版する。

 さ らに彼が画期的であったのは、ローマカトリック教会の堕落ぶりを民衆に知らしめるため、その印刷機械をフルに使ってポスターを作りあちこちに貼り出したことである。当時ヨーロッパの識字率は非常に低いが、絵なら文字が読めなくても何の問題もない。「法王様は嘘つきじゃ!」「坊様はインチキじゃ!聖書には免罪符なんて書いてないんじゃ」・・・こうして改革のうねりは全ヨーロッパに拡大していく。

 グ ーテンベルグの活版印刷は結果として「宗教改革」、「ルネッサンス」、「地理上の発見」を招来し、それらによってようやくヨーロッパは暗黒の中世を終らせ、近代を駆動し始める。  ルターはその世界最先端技術を駆使した大プロモーターであったのだ。またいくら立派な理念も人々に伝わらねば意味をもたないこと(プロモーションの重要性)も証明している。

 だ が彼のプロモートアイデアはそれにとどまらない。作曲もできた彼はそれまで荘重なメロディにのせてラテン語で歌われ、意味もわからないのにただコウベを垂れてひたすら有り難く聴くだけだった賛美歌をすべてドイツ語に置き換え、荘重なメロディも自らが作曲したわかりやすく親しみやすいメロデイに変え、大衆が歌いながら聖書の教えを体感できるようにしたのである。たんに聴くだけの賛美歌ではなく自らが歌い、聖書の世界を体感できる賛美歌へ・・・歌が「聖」から「俗」にチェンジした瞬間である。この瞬間「俗歌」=「ポピュラーミュージック」が誕生した。

 実 は今に続くポピュラーミュージックは「ルター」をもって嚆矢とする(独断です)。ヒップホップのルーツもルターである(偏見です)。プロテスタント国家「アメリカ」の音楽の大半はクリスチャンミュージックである、と独断するのも故ないことではない。その暗殺がその後のアメリカ音楽に大きな影響をもたらした「キング牧師」の名前は「マルティン・ルター」キングだった。

 余 談だが、ボーリングのルールを作ったのもルターである。ボーリングの球は真円・・これはまったき神の道を現し、その行方を阻む10個の棒・・これは神の教えが広がるのを阻止したい悪魔たちを現している。だからその悪魔をずべて吹っ飛ばせば、それが完全なる攻撃(STRIKE)!逆にガーターばかりだと火あぶりの刑に処せられるルール・・・というのはウソですよ!

 当 時教会の中庭で行われていた僧侶たちの余暇の遊びを神の教えの道具にするなんていかにも稀代のアイデアマン「ルター」らしいエピソードである。  だから今でも、アメリカ、ドイツ、オランダ、イギリスなどボーリングが盛んな国はプロテスタントの国なのである。


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