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緋牡丹博徒 “パティ”参上

 昨 年CD大人買いした時購入を果たしていた“パティ・グリフィン”の「チルドレン・ランニング・スルー」と“マーク・ノップラー”の「キル・トゥ・ゲット・クリムゾン」は、ちょい聴きして「お〜〜こりゃ、いいわい!あとでジックリ聴くことにしよう!」と思っていたところ、あまりに大量購入したCDで部屋が散乱、足の踏み場もない状態になり、しばらく行方不明に。ま、家にあるのは確実だし、その後も次々に素晴らしいアルバムを入手し、それらを聴きまくっていたこともあり、そのままになっていた。それが年末の大掃除で無事発見!正月あけからしばらくは、その2枚を交互に聴いていた。

 マ ークは予想通り、というか、その渋さにますます磨きがかかり(この日本語、変かな)、ひょっとして、これは実は後でもう少し楽器をダビングするつもりだったのに、うっかり入れる前のヴァージョンで世の中に出たレア音源?と思わせる(って、そんなことあるわきゃないんだけどね)程の、音数の少なさである。少ない!ホントに少ない。もう呆れるくらい少ない。でも何度も繰り返し聴いてしまう・・・のに、まったく飽きない・・・つまりは、いつものノップラー効果満点のアルバム。前作の「シャングリラ」より、もう一つ前の「ラグ・ピッカーズ・ドリーム」の世界まで戻ってくれて嬉しい。

 だが、本日は”マーク・ノップラー”ではなく、“パティ・グリフィン”である。

 最 初に僕がパティの声を聴いたのは、“エミルー・ハリス”の名作「レッド・ダート・ガール」でのコーラスワーク。次が“イライザ・ギルキーソン”の傑作「ランド・オブ・ミルク・アンド・ハニー」のオーラス曲・・・ウッディ・ガスリーの未発表曲「ピース・コール」(名曲です)における4人の女性ボーカルの一人(他のメンバーがス・ゴ・イ・・・イライザとパティと“メアリー・チェイピン・カーペンター”そして“アイリス・ディメント”・・・わーい!マイフェバリットばかりじゃないの!)の時だった。さらに昨年のマイベストテン上位に入れた“ガーフ・モリックス”の「ダイアモンド・トゥ・ダスト」でも素晴らしいコーラスワークで参加している。なにせこのアルバム、”パティ・グリフィン”のコーラスと“リック・リチャーズ”のドラム、“レイ・ボネビル”のハモニカ以外のすべのパートはガーフ自身が一人で担当している。
 ジャケットには「Gurf did whatever else needed doing」と書いてある・・・つまり、“わしゃ、余計な音は何一つ弾かんけんね!要らん音は一音も入れんけんのぉ!”、という固い決意のもと、安上がり、というのかリーゾナボーというのかわからないが、極めて少人数(つまり四人)で完成させた、無駄音一切ナシのアルバムなので、パティの存在感が余計に際立とうというものだ。

 彼 女のアルバムは、デビュー作である「リビング・ウィズ・ゴースト」とライブアルバム「ア・キス・イン・タイム」を持っている。「リビング・ウィズ・・」は、デヴューアルバムにも拘らず、大胆にもアコギ一本で勝負した(つまり彼女の歌とギターだけ!)実に気合いの入った驚きの作品。

 ライブアルバムも“エミルー・ハリス”や“バディ&ジュリー・ミラー夫妻”が参加した観客との一体感にあふれた好盤である。

 だ が、今回のアルバムにはホントに驚いた。これまでの作品の何十倍も素晴らしい音楽を届けてくれているのだ。

 1曲目 ウッドベースとブラシドラムで始まるイントロの向こう側から、静謐なのに力強い彼女のボーカルが徐々に立ち上がってくる。この先一体どんな音楽世界が待ち受けているのだろう?と期待で胸がワクワクする。

 2曲目。一転して、ミディアムテンポのブルース調の曲。途中、「ここで管楽器が入れば最高かも!」なんて思うと、ジャストのタイミングでブラスが鳴り出すのと、面白いパーカッシブなリズムアレンジが素晴らしくカッコいい!期待はますます高まる。

 3 曲目は、その期待に応えるかのように、なんとエミルー・ハリス姉さんがハーモニーボーカルをつけている!僕は“ルシンダ・ウィリアムス”をルシンダ姐御、“アリソン・クラウス”はアリソン嬢と呼び習わしているが、エミルー・ハリスはエミルー姉さんである。格別の意味があるわけではないが、何故かそう呼んでいる。エミルー姉さんは、この界隈のゴッドマザーというかゴッドねえちゃん。一キロ先からでも、あっ、エミルー姉だ!、とわかる独特の存在感のある声、でもその声には誰にコーラスをつけても見事にブレンドさせる親和性がある。しかもそのリズムギターは、さきの“マーク・ノップラー”をして「エミルーのリズムギターは“キース・リチャーズ”と同じ、いや彼以上に正確ですごい」と言わしめた程。立ち姿にも貫録がある。二人のハーモニーがしんしんと心に響く。

 4 曲目 デビューアルバムと同じく、まことにノリの良い、必殺のアコギストロークで激しく始まる、なんともカッコいいアレンジ。いよぉーっ!パティ!カッコいいぞ!と声をかけたくなる。

 5曲目 彼女の真骨頂ともいえるバラード。この曲以外でもそうだが、このアルバム、ここぞというタイミングで入るストリングスとブラスが実に心地よい。そして彼女は素晴らしいピアノも弾くのである!

 6 曲目 前曲に続いて、これまた絶品のバラード!まことに雄大なスケール感と、抑制されてはいるけれど、その抑制から逸脱する激しいパティの情感に圧倒される。中盤から徐々に昂揚してくる彼女の感情が、終盤では、ついに針を振り切り「ヘブンリー ディ、ヘブンリー ディ」と叫ぶように歌われる大サビで、ピアノとストリングスが彼女の歌を支えるところはこのアルバムの一番の聴き所である。そしてこの曲で聴かれる気品あふれるグランド・ピアノは、何と「イアン・マクラガン!」・・・そうか!この「NO!枕銃」印の刻印は、なにより、ボストンフォークシーンからナッシュビルに漂泊し、今はルーツミュージックの聖地「オースティン」に草鞋を脱いでいるパティが、オースティン一の親分“ガーフ・モリックス”から盃を受けたことを明快に物語っている。ま、「緋牡丹博徒お竜参上!」でいえば、「若山富三郎」演じるところの”熊寅“親分がガーフで、ガーフ一家の客分、「菅原文太」演ずる青山常次郎がイアン・マクラガンという役回りである。もちろん、「藤純子」演じる矢野竜子、通り名を”緋牡丹お竜”がパティである。・・・実は先週、約40年ぶりにDVDでこの映画を見ていて、なぜかオースティンの音楽シーンを勝手にオーバーラップさせ妄想して楽しんでいるのである。

 7 曲目 再び、ギターストロークで幕をあけるアップテンポの曲は、1分15秒経過したあたりで、ようやくドラムが入ってくる。一緒にこのアルバムを車中で聴いていた、カントリーロックバンド「マーム」のリーダーM山君は「よう、ここまでドラム我慢できますね・・・自分らはよぅ真似できまへんわ」(彼は関西人である)と、さすがにプロのミュージシャンらしい視点でコメントする。なるほどなぁ・・・ま、そこまでタメのきいたドラムってわけさ!途中から入るブラスがメキシカンなリズムを刻み、途端に音の世界がぐっとカラフルに拡がる見事なアレンジ!

 8曲目 今度は実に静かな内省的で美しい曲。彼女の生まれ故郷メイン州への思いを歌っているのだろうか?沁みるなぁ。

 9 曲目 いきなりイアンの重厚なピアノに乗って、ソウルフルな歌声が聞こえてくる。ブルースとも、カントリーとも、フォークとも、ルーツとも様々な要素を持っていると言われる彼女だけど、実は一番の要素は「ソウル」なんではないだろうか?あえて言えば、ホワイト・ウーマンズ・ソウル!なんとも天上界と交信しているかのような祈りの歌が、そう感じさせるのだろう。声はあきらかに白人のそれだけど、実にスピリチュアルなのだ。
 パティはオースティンの客人、そういえば、ピアノのイアンもイギリスからの漂流者、ともに客分であるがゆえに、どこまでも控えめで品格を失わない音楽は、まさに藤純子と菅原文太の道行きの名場面「今戸橋の見送り」の如し。

 後半3曲はどれも、そんなスピリチュアルな彼女の神髄があますところなく表現された、厳かで、崇高でさえある神との交信の音楽(いうなればホワイト・ゴスペル)が連なり、聞き終わった後、素晴らしい余韻を残してくれるのである。

 全 体を通して、あきれるほど少ないリバーブ!これまた一緒に車中で聴いていたマイミクの安部王子は、「こりゃ、日本のレコーディングでは有りえないですね」「ボーカリストが怒り出しますよ。」「もっとリバーブ下さい!って言いますね。」「こんなに私の声を裸にしないで!って。」と苦笑いしながら言う。さすがにプロのプロデューサーは言うことが違うなぁ。どうしても制作者目線で見るんだね。

 たしかにねぇ、でも、このドライシェリーのような超辛口のボーカル処理だからこそ、余計な夾雑物が皆無であればこそ、我々、言葉がわからない倭人にも、そのスピリッツだけはストレートに伝わるのである。

 “ノラ・ジョーンズ”に続く才能、といわれている“ケリー・ノーブル”が最も尊敬する女性シンガーはパティ・グリフィン!というのも、二人に相通じるものがあるだけによく解る。

 前 の日記にも書いたけれど、このアルバムは今年のグラミーノミネートでもある。そのカテゴリー69「BEST COMTEMPORARY/AMERICANA ALBUM」におけるノミニーズは以下の通り。

 ライ・クーダー 「我が名はバディ」
 メアリー・チェイピン・カーペンター:「THE CALLING」
 スティーブ・アール:「WASHINGTON SQUARE SERENADE」
 パティ・グリフィン:「CHILDREN RUNNING THROUGH」
 トム・ウェイツ:「ORPHANS」

 なんという激戦区・・だが、だれがとっても文句を言うものはおるまい。少なくとも僕はみんなにあげたかったです。


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