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「オリジナリティ」  / ぶらきぼう
 デモテープを送ってくるアマチュアミュージシャンと話していると、ほぼ全員が「オリジナリティ」に拘っていることに少なからず驚かされる。
 曰く「だれそれに似ていると言われるのがイヤなんです」
 曰く「オリジナリティがなければデビューできないんですよね」などなど。

 「人と同じことしたくない」は若モノの特権だけど、だいたいにおいて音楽は「誰かにあこがれて、ついフラフラと入り込んでしまう迷宮のようなもの」ではないのか?
  ビートルズが好きな奥田民夫が、ビートルズ似のメロディを作るのは当然だ。山下達郎をビーチボーイズの亜流だと言う人がどこにいるというのか?
 そもそも音楽の歴史なんて先人の遺産を発展させ承継させてきた歴史です。まったくの「無」から「有」を作り出せるひとはきわめて稀。いや、一人もいないのではないか。
  ブラームスもドボルザークもそれぞれ、スラブやハンガリー舞曲集の構想を得るためにヨーロッパ各地を旅行し、田舎の収穫祭などをフィールドワークしている。ショパンも小さいころから慣れ親しんだ音楽をもとに「ポロネーズ」を作っているではないか。だからといってパクリやショパン、とは呼ばれてはいない。
 に独創的な人とは、何か新しいものを初めて観察する人ではなく、古いもの、あるいは誰の眼にもふれていたが、見逃されていたものを、新しいものとして観察できる人である。」と述べたのは、かのニーチェである。
 リジナルとは既存のものを用いて新しい結合様式を生み出すこと。」と喝破した経済学者のシュムペーターは「企業家とは、単なる思いつきで事業を始める人ではなく、問題に関する多くの知識を背景に、他人に見えなかったものを見て、利潤機会を発見し計画を実行する能力をもった人」と規定している。また企業家といっても「他者と違うことをしただけでは単なる逸脱者に過ぎない」といい、続けて「計画を成功させて企業家となった後、彼に追従する集団が形成され、経済社会が変化することによってはじめて企業家は革新者になるのである。追従集団が形成されこの集団を通じて彼の革新は後世に伝えられることになる。」と言っている。
 この企業家という部分をオリジナルに置き換えればわかりやすい。
「カレーうどん」なるものがある。それは「カレー」と「うどん」という既存のモノを組み合わせたものにすぎないかも知れない。だがいまや「カレーうどん」がメニューにない蕎麦屋やうどん屋はない。最初に組み合わせた人の名前はわからないが、わかったところで、その人を「単なる組み合わせ・思いつき野郎ジャン!」とせせら笑う人はいないだろう。「イチゴ大福」も追従者が多数あらわれたことにより、単なる「思いつきお菓子」から「革新的お菓子」になった。
  また、「うどん」とて、最初は小麦を粉にひき、こねて食していたものを、誰かがひも状にのばし、ゆで時間を短縮することを思いつき実行したことによりあっというまに広まったのだ。さらにそれを平たくしてよりゆで時間を短くしたのが「きしめん」だ。「カレー」もインド発、イギリス経由で日本に入ってきたが「コメ」と結びつくことによって「カレーライス」となり大ブレーク、いまでは立派な「日本食」になった。

大指揮者レナード・バーンスタインは「ウェスト・サイド・ストーリー」の作曲家としても有名だが、ある日、自分でもウットリするほど素晴らしいメロディを作った。だがしばらくして、そのメロディはベートーベンのピアノ協奏曲第4番の第2楽章のフレーズにインスパイアされていたことに気づく。以後、「あーやっぱり、僕の作るメロディなんて先人の誰かの焼き直しだ!」と絶望し、それ以後筆をたった。それで作曲をやめるのもなんだかなぁ?と思うが、まったくのオリジナルなんてないことの有力な証左となるだろう。
 「世界」のサカモト“教授”も同じようなコメントを残している。

 音楽著作権には著作権の保護期間なんてものがある。死後50年だ。50年たてば、どんな人でも自由に無償でその音楽を使えるようになっている。それもこれも著作物は、「先人の遺産を受け継いで発展させ、それを次代に受け継いでいくもの」であり、それこそが「文化」であり、文化はまた国民の財産であるのだから未来永劫誰かに独占されてはいならなものなのだ。との考え方に由来している。
 ビートルズもプレスリーも、みんな誰しもあこがれのミュージシャンがいた。そしてそのミュージシャンになろうとする・・が、なれるわけはない・・なれないのになろうとしているうちに、いつのまにかビートルズやプレスリーに「なって」しまっただけなのだ。

 オリジナルにこだわる前に、むしろ自分の好きな音楽家になりきってみるぐらいハマってみることをおすすめする。


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