第二章:第一話



 1973年5月
          「誕生」

「ねぇ、バンドのメンバーも決まったことだし、そろそろ名前きめようよ」
 ポトフだか野菜スープだかわからない物をおかわりしながら大貫が言った。
「う〜ん、そうだねぇ。どんなんがいいかなぁ」
 と、器用にスープの中の細かい肉をよけている村松。肉が苦手らしい。
「バンド名はけっこう重要だから簡単には決められないけど、アイデアだけでも出してみ
ようか」
 山下はもう食事を終えて、もういっぷくしている。意外に早食いだ。
「イージー・ローリンとか」
「そんな簡単に転がらないよ」
「コミックスは?」
「・・・・・・・・」
「ブルー・プラネッツ」
「地球は青かった、か?」
「ブラック・ウィドウズなんてどう」
「やーよ、そんなの。未亡人なんて」
 大貫がにらむ。大貫がにらむとこわい。
「意外に下赤塚5丁目バンドなんて受けるかも」
「あっ、それ、フィフス・アベニュー・バンドみたいで好きだけどね。日本語にするとど
うかなぁ」
「まぁ、今ここでは決めらんないから来週までの宿題ってことにしようか」
「賛成」
「そうね、野口クンも鰐川クンもいないし」
「それにしてもこのスープ美味かったなぁ」
「あたし作るとこ見てたんだけど、面白かったわ」
「どんなだったの」
「Nさんが母屋から残り物の野菜をたくさん持ってきて、それをほとんど切らないで圧力
鍋に入れてね・・・・で、沸騰したらすぐ火を止めてね、そのまま・・・」
 と料理の話がえんえんと続くので省略。
 Nさんというのは山下の中学時代の同級生でかつてのバンド仲間。そして村松の高校の
後輩でもある。
 Nさんと山下と村松。この3人のつながりが全ての始まりであった。
 それはほぼ1年前の夏のことである。