vol.11




 楽屋から客席へつながるドアを開けロビーに出ると、人気もなくし〜んとしている。
みんな、はっぴいえんど最後の演奏を聞こうと客席に集中しているのだろう。
「きゃっ、何にも見えない。」
 ター坊が客席ドアをあけると、人、人、人の背中であった。
「しょうがねえなぁ。ここでがまんしよっか。音ぐらいは聞こえるだろう。」
「やだ。ちゃんと見えるとこまで行くんだから。」
 はっぴいえんどの演奏が始まった。 
「ほら、早く。左の壁際の通路から突破するから。」
 こうなると女性は強い。
 躊躇する男どもをしり目にすいすいと人込みをかきわけてゆく。しかたなく男どもも後についてゆく。金魚のふん状態。いや、メス金魚にふん4つか。
「ここらでいいか。1曲そんしちゃったね。」
 壁際の通路、ステージから三分の一あたりで進むのをやめたター坊が、後ろの鰐川に言う。
「えっ、な〜に?」
 このあたりまで来ると、P.A.の音圧に負けて、話し声は聞こえない。
 はっぴいえんどの演奏は中盤にさしかかっている。観客は静かな興奮の中にいる。
山下は熱い思いを胸にたぎらせていた。
「いつかは僕たちもこんなコンサートを、こんな熱いコンサートをやるんだ」と。

第1章 おわり

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